Katayama Takatoshi Weblog
ジョセフ・コーネルの宇宙
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さて、コーネルである。
生涯ニューヨークから一歩も出ずに、自宅の地下室にこもって安月給の仕事の合間にひたすら「箱」を作り続けていたというコーネル。専門的な美術教育を受けたことがなくアーティストと呼ばれることを嫌っていたコーネル。


正直に言おう。
私はずっとコーネルに嫉妬していた。

私は学生時代にコーネルに出会ってからずっと、その「箱」が気になっていた。気になってはいたが「コーネルが好き」だとはなかなか言えない。あの、「世界を丹念に封じ込めた」ような小さな箱を認めてしまうと、「自己を如何にアピールするか」とか、「人と違う作品を作るにはどうしたら良いか」などというくだらないことしか考えていない自分がとてもつまらなく思えたし、とにかく巨大で、人を圧倒させるような「芸術」を作ろうとしている自分には価値が無いような気がした。東京藝大という日本一の美術の専門教育機関にいることさえもなんだか恥ずかしいことのように思えた。その頃の自分はコーネルの仕事を素直に認めるわけにはいかなかった。あの箱の価値を認めてしまうと自分を否定することに繋がってしまうような恐怖があったのだ。

しかし、あの箱を無視することは絶対に出来ない。美術館に行ってコーネルの箱があると、いつも斜に構えて横目で見ていたが、やがて正視できるようになり、今では凝視している。

箱の中には宇宙がある。「世界」は自分の外にあるのではなく、内にあるのだということをコーネルの箱はまざまざと見せつける。

川村記念美術館で「ジョゼフ・コーネル × 高橋睦郎 箱宇宙を讃えて」という展覧会をやっている。コーネルの箱を愛してやまない高橋さんとコーネルのコラボという形だが、それをすばらしい展示で見せてくれている。展示デザインは半澤潤という方。存じ上げなかったのでネットで検索してみると、高橋さんの本の装幀をされている方のよう。なるほど、それならこのすばらしい展示も納得がいく。いったいどうやったらこんな展示が可能になるのか不思議な気がしたのだが、半澤潤という方は高橋睦郎さんのことも、ジョセフ・コーネルのことも、この展覧会の意味もよく分かってらっしゃるに違いない。

若い頃の自分のように頭の硬い美術関係者がこの展示を見たらおそらく「作品がよく見えないじゃないか」と言うのではないかと思われるほど会場は暗く、箱と詩だけが空間にぽっかりと浮かんでいる。そして周囲は星、星。星!その星のいびつな形といい、ほんの少し流れている音楽といい、すばらしいの一言。夢のような体験。4月17日に高橋睦郎さん本人による詩の朗読があったのだが、私は家作りと朗読会を天秤にかけて、家のほうを選んでしまった…。ああ、今更ながらに悔やまれる。何を差し置いても行くべきであった。頭の硬い私はいまでもこうして間違えるのだ。

展覧会の図録がまた抱きしめたくなるほどすばらしい。なんと活版印刷のフランス綴! アンカットのページをペーパーナイフで割いていくように出来ている。書籍の電子化が進む今、物としての本を強烈に意識する。「紙」「インク」「糸」「プレス跡」という美しいものたちがとても幸せな形で本というオブジェになっている。
当然ながらそこには「再生紙で出来ています」とか「ソイインクを使っています」などという無意味で無粋なことは書かれていない。バーコードなどもちろん無い。「本」は単なる情報ではないのだ。その書かれている内容、載っている絵、フォント、紙など、全てが活かされて、1冊の本として結実している。装幀はやはり半澤潤さん。これだけでも泣きたくなるほど美しい。
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会期は7月19日(月・祝)まで。
会期が長いのでもう一度行こうと思う。

上の方の写真は以前にamazonで買った作品集(なんとDVD付き)。結構良いのでおすすめです。
by katayama_t | 2010-04-28 08:00 | Art
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記録すること。すべて過ぎ去ってしまう前に。
by katayama_t
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