Katayama Takatoshi Weblog
漁師になるために必要なこと
生まれ育った沼津の家は代々漁師だった。暗いうちに漁に出て朝早く市場に魚を卸す。昼間は網を作ったり、舟のメンテナンスをしたりして、雨が降ると休む。楽しそうだ。

小学生だったある日、興味があって一緒に漁についていった。真っ暗な冷たい海の上、昨日のうちに仕掛けておいた網を引き上げて素手でエビや魚を引きはがす。朝食はおひつに入れて持ってきたご飯と梅干し、今とったばかりの魚の刺身。新鮮すぎる魚は味も素っ気もない。全然楽しくない。寒くて辛いだけだ。自分にはこの仕事は無理だと思った。…無理というより、もっと楽な仕事がいいと思った。それからは「漁に連れて行って」とは二度と言わなかった。今にして思えばもったいないことをしたと思う。

いま私は漁師になろうと思っている。山に罠を仕掛けてイノシシや鹿をとるのだ。金を払って人に殺してもらった生き物ではなく、自分で殺した生き物を食べたいと考えている。


今夜、家に帰ったら、車から降りる前に妻が駆け寄ってきてこう言った。
「ねえ、大変、何かが池で泳いでいるの。ちょっと見て!」
「何? 何かわからないの?」
「うん、何か大きなもの」
「……」

池というのは、家のすぐ隣にある防火用水で、コンクリート製のプールを鉄の柵で囲ってある。水の音がする方向を懐中電灯で照らすと、何か鳩くらいの大きさの奇妙な生き物がこっちに向かってくる。一瞬ぎょっとしたが、よくみると動物の頭だ。
「鹿だ!」
それから救出作戦が始まった。まず柵ごしに前足をつかんで引っ張りあげようとしたが、暴れて思うようにいかない。次に、自作のステンレス製タモ網ですくおうと試みたが、やはり暴れてうまくいかない。次に家にあったコンパネを池に投げ入れて、上に乗るよう誘導したが、水中から板の上に乗るには蹄では無理。こうなったら柵を乗り越えて飛び込むしか無いか、と覚悟を決めたが、ふと手元の柵の出入り口を見ると金属の腐食が進んで鍵が意味を成していない。鍵の代わりに縛ってある針金をナイフで切り、柵を壊してようやく救出することができた。

よくみると鹿だと思っていた動物はどうも鹿ではなさそう。もしかしてこれが噂のキョンってやつか? と思ってネットで調べたらやはりキョン。まだミルクが必要なほど小さくてかわいいが、野生動物としての威厳もある。自分よりずっとりっぱな生き物だ。

肉を食べるのなら動物を殺す痛みを知るべきだ、…なんて思っていたが、自分はこの動物を殺せないと思った。無理だ。そんな痛みを背負うくらいなら肉なんていらない。一生食べなくてもいい。魚や鳥なら殺せるが、四つ足になると無理。少なくとも今の自分はそこまでタフじゃない。
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by katayama_t | 2010-05-26 00:31 | Life
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記録すること。すべて過ぎ去ってしまう前に。
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