Katayama Takatoshi Weblog
「キャリア教育」という憂鬱
文科省は「生きる力」をつけさせるためにキャリア教育(児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育)を推進するなどと言っており、そのためには「人間関係形成能力」「意志決定能力」「将来設計能力」「情報活用能力」が必要だとしている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/06122006.htm

それを受けて、先日の毎日新聞記事にはこうある。
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デジタル教科書:学校で実証実験へ -- 文科省方針
 デジタル教科書や電子黒板などの活用を検討する文部科学省の「学校教育の情報化に関する懇談会」(座長、安西祐一郎・慶応大教授)は28日、教育の情報化ビジョン骨子案を審議した。この日出された意見も骨子に盛り込み、8月に副文科相に提出することを決めた。文科省はこれを受け、来年度から複数年度にわたり、デジタル教科書の教育効果や、子供たちが持つ情報端末にはどんな機能が必要かに関し学校現場で総合的な実証実験に乗り出す方針を決めた。
 同省によると、実証実験では、モデル的なデジタル教科書と情報端末(1人1台)を使って、小中高校など発達段階に応じて、どのような指導方法が適切か研究する。端末の規格、モデル教材の開発や供給・配信方法、子供たちの健康への影響の有無などについても調べる。具体的な実験方法については、今秋に懇談会の作業部会を設置して検討する。
 骨子案は、情報活用能力をはぐくむことが、子供たちの「生きる力」に資すると位置づけた。情報通信技術によって動画などが使え、分かりやすい授業が実現したり、子供たち同士の双方向性のある授業が可能となると指摘した。【本橋和夫】
毎日新聞 2010年7月29日 東京朝刊
http://mainichi.jp/life/edu/news/20100729ddm012040095000c.html
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「生きる力」ねえ…。「生きる力」ってそういうことなの?

現在でも小学校ではパソコンを使った授業が申し訳程度に行われているが。いったい何をしているかというとお絵かきソフトで絵を描いたり、ワープロソフトで文章を打ったりしているだけで、休み時間にはパソコンで子どもがゲームをしたりしている。何のために導入しているのかまったく意味不明だ。

デジタル教科書に反対するつもりはないし、将来的には一部そうなっていくのは必然だと思うが、こんなところに「生きる力」などという言葉を使うのにはとても違和感がある。

働かない若者が増えているのが問題だというが、キャリア教育という名の下に、子どもを一定の価値観に閉じ込め、高校や大学を出たら就職するものだということに疑問を持つことさえ許されないようになったら窮屈で窒息しそうだ。そういう場から軽々とドロップアウトできる子どもはまだいいが、「いい子」であるために自分を殺し、損なっていく子どもも多いだろう。

逆なんじゃないかと思う。就職しなくても生きていけるような「生きる力」を与えるべきなのだ。世界のしくみを教え、人間について考える時間を持つ。教えなければいけないことは山ほどある。国家とは何か、経済とは何か、貧困とは、貨幣とは、文化とは、…。

そして、それらに増して何よりも大事なのは、子どもの頃に自然の中で虫や動物と心ゆくまで戯れることなのだ。その経験が自分と世界を結びつける上で心強い指針になる。

一人で立つ力を身につけたのなら就職でも起業でも放浪でもなんでもやればよい。

しかし、わかっている。本当の問題はそれを教えられる教師がごく少数だということを。教師には子どもの頃から今まで「学校」という閉鎖空間に疑問を抱かずに来た愚鈍(優秀)な人間が多いということを。

やはり人を導くのは人なのだ。システムじゃない。
by katayama_t | 2010-08-07 08:28 | Social | Trackback | Comments(0)
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