Katayama Takatoshi Weblog
畳_d0094333_21181099.jpg
畳_d0094333_21182545.jpg
畳_d0094333_21183633.jpg
畳_d0094333_21184720.jpg
当たり前のことだが、畳は日本の伝統文化である。
畳の効能やここち良さなど、たぶん今までにたくさん聞かされてきたが、ほとんど共感できなかった。

何故か?

「伝統文化は良い」というのは、「手作り品は良い」というのと同様に、何の根拠もなく、どこか宗教じみて聞こえたし、そもそも、本棚や机や椅子やベッドをすべてひと部屋に置くワンルームの生活には、あのフニャフニャした畳はそぐわない。木の床に直接布団を敷くのには抵抗はあるが、それも、どうしてもというわけではなく床が冷たくなければ良いのかもしれない。

しかし、そう思っていたのは、今まで共感できるような畳文化を享受していなかったからなのだと今日気づいた。

和室に畳を入れた。
千葉産の藁床と九州のイグサで“普通の”畳を作ってくれるよう近くの畳屋さんに頼んだら、そういう“本格的な”畳を注文されることは長らく無かったらしく、とても感激して丁寧に良い仕事をしてくれた。材料も、藁床や畳表が届いても気に入らなければ何度でも返品して、納得のいくまで吟味したらしい。最近は藁床を用いない軽い畳しか扱っていないらしいが、藁床の畳は60ミリの厚みで1枚が38kgから42kgあり、運ぶだけでも息が上がる。8枚全てが違う寸法で、それを順番に入れていくと隙間無くぴったりと収まった。最後に高さの微調整をして「これで良し」となった時には部屋の空気がピンと張り詰めていた。畳屋さんも久しぶりに本格的な畳を作れて満足そう。適度な弾力と心地よい肌触りがあり、加えてイグサの良い香りに昨夜は興奮が収まらずよく眠れなかった。

しかし、考えてみれば今までだって畳には触れていたはずなのに、どうしてこんなふうに感激しなかったのだろう?

思い返してみれば、ものごころついた時からベッドで寝ていて、畳にもカーペットを敷いていた。今にして思えば、ずいぶんとおかしなことをしていたものだが、畳にカーペットというのはその頃流行っていて、そのために売られている脚の長い鋲を使って化繊のカーペットで畳を覆い隠していた。また、やはり当時の流行だったのだと思うが、母親は何にでもカバーをつけたがった。電話機にもドアノブにも車のシートにもカバーを着けた。畳にカーペットというのも「カバーを着ける」の延長だったのかもしれない。

たぶんその頃からなのだと思う。一般住宅の外も内もイミテーションの素材が使われるようになったのは。外壁にはサイディング、内壁にはプラスチック製の壁紙が定番になり、板はすべてベニヤ板。親の世代は積極的にそういう“新しい”材料を使いたがっていたように見える。食べ物も冷凍食品が普及し、ランドセルも合成皮革、墓石はピカピカの黒御影になっていった。

追い打ちを掛けるように建築基準法は住宅の難燃化を目指して突っ走る。日本は昔から都市の大火に見舞われてきたからしかたがないとはいえ、イミテーションの工業素材を使った住宅は日本人の“素材に対する感受性”を急速に奪ってきたのではないかと思えてならない。それでも、昭和生まれの私たちの世代はまだ、舗装されていない道を知っているし、道に小石が転がっていた世界を知っている。空き地には雑草が生い茂り土管が転がっていて、野良犬が徘徊していて、豚舎や鶏舎が身近にあった。

現在の無味乾燥な日本の風景や、素材に対する感受性の欠如した人達を見て親の世代を批判するのはたやすいが、次は私たちが批判される番だ。“過渡期”を知っている者として、現状に否をつきつける責任があるのではないかと思う。残された時間で何をすべきかをもう一度よく見極めなければならない。

この世界は私たちのものだから。
by katayama_t | 2012-01-28 21:15 | Construction | Trackback | Comments(0)
名前
URL
削除用パスワード
<< 世界をありのままに見るために 時計を巡る旅 >>


記録すること。すべて過ぎ去ってしまう前に。
by katayama_t
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
2023年 09月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 06月
2020年 10月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 03月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 08月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
Link
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧