Katayama Takatoshi Weblog
生殖医療のことなど考えてみた
この記事を読んで思うことがある。
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<代理出産>向井さん夫妻の出生届、最高裁で審理へ (毎日新聞)
http://www.excite.co.jp/News/society/20061027212000/20061028M40.120.html

 タレントの向井亜紀さん(41)と元プロレスラーの高田延彦さん(44)夫妻が米国女性に代理出産を依頼して生まれた双子の男児(2)の出生届を巡る裁判で、東京高裁(南敏文裁判長)は27日、東京都品川区長の抗告を許可する決定を出した。男児を夫妻の子として同区が出生届を受理すべきかどうか、最高裁で審理されることになった。

 男児を巡っては東京高裁が先月「夫妻に養育されることが子の福祉にかなう」などとして出生届を受理するよう命じた。しかし、国は「出産者を母とする」との法解釈に基づき、代理出産で生まれた子の出生届を受理しない姿勢をとっており、同区は10日、許可抗告の手続きをしていた。

 許可抗告は、通常は不服申し立てが出来ない高裁決定について最高裁での審理を求める例外的な手続き。【高倉友彰】
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現状の民法は、代理出産というものが考慮されておらず、よって認知というのも父親に限定された問題であった。母親は出産の事実から当然実子であることが確認されるので、母親かどうかなんていう論争は今まで無かった。では、法の整備が遅れていたのかというと一概にそうも言えない。なぜかというと日本では代理出産を罰則付きで禁止する方向で動いていたからだ。つまり母親とは認められないという合意にすでに達していたのだ。だから国の判断は妥当だと言えるだろう。ここで許可してしまったら法治国家とは言えなくなる。

代理出産やAID(非配偶者間人工授精)という生殖医療技術がそれに関わる倫理的な問題や法整備を置き去りにして急速に発展してきたのがそもそもの問題なのだろう。科学者というのはこれだから困る。可能であれば何でもやっていいのか?という問題だ。原爆の例を引くまでもなく、可能だからといってやってはいけないことはたくさんあるのだ。少なくとも倫理面がクリアされ民意の賛同が得られ、法整備に合わせて行わなければ危険きわまりない。法整備が遅れていることをやり玉にあげる語り口は賛同を得やすいが問題はそう単純ではないのだ。

現状の生殖医療には倫理的な問題がたくさんある。
代理母やAIDの精子提供者の人権、またそれにもまして生まれてくる子どもの人権や出自を知る権利など様々な問題を抱えており、そう簡単に結論が出るものではないだろう。だからこそこれらの生殖医療に関する判断は国によって大きく異なっているのだ。
ある国では商業的な目的でも可能で、またある国では罰則付きで厳しく禁止しているという具合だ。今回この件の出生届を受理することが子どもの福祉の為に良いことであるということには異論はないだろう、しかしまずは法整備が必要だ。考えられる限りのあらゆるケースを想定して法律を整備しなければ、すぐに新たな問題に直面するだろう。法律が場当たり的に変わってもらっては困るのだ。倫理上の問題はどうクリアすれば良いのかというのもそうとう難しい問題だ。出産には危険も伴う、万が一出産が元で妊婦が死亡したなんてことになったらどうする?それに代理母が子どもを手放したくなくなったら?母親の定義はどうする?今回のケースは遺伝上の母親を母とするかという問題だが、遺伝上も繋がりがない場合はどう判断したらよいのか?子どもへの告知は義務づけるべきか?問題は山積だ。

向井さんという方の真意がどこにあるのかわからないが、そういう論争を巻き起こして法整備を促進するという一定の成果が得られればそれでよいのではないだろうか?実子とすることだけが目的ならば特別養子縁組制度というものもあるのだ。これなら現状の法律で問題なく実子として登録されるはずだ。

今の段階で代理出産をいくら禁止しても、実際にはもう多くの夫婦が海を渡っているし現実的ではない。今となってはこれから生まれてくるたくさんの子どもたちのためにももっと建設的な議論が必要だろう。東京高裁が不服申し立てを受理して最高裁での審理を求めたというのにはそういう背景がある。
ただ私自身は代理出産にはやはり反対だ、それはどう大目に見ても結局は親のエゴ以外のなにものでもないからだ。もちろんそれを全否定することなどできないが。
by katayama_t | 2006-10-28 11:23 | Social | Trackback | Comments(0)
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