大学院生と共に表参道から徒歩5分の「パブリックアート研究所」というNPOに話を聞きに行ってきた。パブリックアートに関する資料をたくさん収集しているというので手っ取り早く現状を認識できるだろうと思い、行くことにしたのだが、実を言うと行く前は、「なんだか得体が知れないところだなあ、うさんくさい場所かも」と思っていた。
ところが行ってみると、とんでもなくまっとうな仕事をしているところだった。私たちの対応をしてくれた杉村荘吉さんという初老の男性はきらきらと輝いている目がとても印象的な知的な方で、話の内容も実に的を射ていて魅力に富んでおり、ぐいぐい引き込まれる。話は自分たちが今までどういう活動をしてきたのかという説明から始まって、パブリックアートの現状や歴史などの話を一通りした後、こちらが興味津々だとみるや、アートとは何か、とか、パブリックとは何かというような本質論に入って行き、文明論や日本古来の価値観など話はどんどん広がっていった。 話されていること全てに大きく同意しながら、これほど大きな視点でしっかり考えている人がいるということがとても嬉しく、また心強く感じていた。 そして次のコトバを聞いて私の身体中の血液は一気に沸騰した。 杉村さんは 「私はこれから世の中のアートに関する考え方を変えていかなければならないと思っているのです」 と言ったのだ。 なんということだ。それは私が常日頃考えていたことに非常に近いが、大きく違うのは、私は「世の中のアートに対する考え方は間違っている」と考えているだけ、だったのに対し、杉村さんは「自分が変えていかなければならない」とはっきり宣言していることだ。おそれいったと同時に、自分の不甲斐なさを恥じた。 話の流れはこうだ。 アートには「パブリックアート」と「プライベートアート」がある。プライベートアートというものは個人の思いを表現するものであり、その起源はフィレンツェにある。メジチ家に代表されるような金持ちが職人を囲って自分の権威を表現するために美術作品を作らせたのが始まりである。また、一方ゲルマン民族はキリスト教世界へのあこがれやコンプレックスから、フェアリーテイル(おとぎ話・童話)を一切否定し哲学を発達させていった。そして、その中で「アート」を神格化していく。その流れが現在まで続いていて、アートというものが特別な位置に置かれている。現代アートがバカげたほど高額で売買されているのは、それを理解し所有することが1つのステータスであるからであり、その底に流れているのは彼らのコンプレックスである。 そういう流れをくむプライベートアートの本質を理解しないで、それをそのままパブリックな場所に持って来てしまったのが現代のパブリックアートの大きな誤りである。パブリックアートというもののあるべき姿を考える場合には一般に考えられているような「個人の内面を表現するもの=アート」という考え方を変えなければならない。 はい、おっしゃるとおりです。全面的に同意します。 パブリックアートの本質を考え出すと、自然と日本に古くから存在する神社の鳥居やお地蔵様など、人々に長く愛されてきたObjectに行き当たる。そしておそらくは、そういう事物の本質を見極め、村や町の魅力として再構築していくことが過疎化に悩む村を活性化させる鍵になるのだ。 そのような町おこしに関する会話をしていた時にも、私が「その土地の良さを地元の人たちはほとんどわかっていない、一生懸命間違っている」という話をすると、「それはあなたが率先して変えていかなければならないのです」ときっぱり言う。そして、ぜひ自分が住む町や村の良さを取り上げる催しをやってください、と依頼された。新聞社などにも働きかけてバックアップします、と話は一気に具体化していく。 なんだか凄い方と出会ってしまった。
by katayama_t
| 2007-06-21 23:17
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