Katayama Takatoshi Weblog
絵画は奇跡を起こさなければならない
d0094333_19574961.jpg「絵を描くことが自己表現に関わると考えたことは、これまでに一度もありません。」「自分自身を知るのが貴重なのは、そうすれば作品制作の過程から自己を排除できるからにすぎません。」マーク・ロスコ

美術家なら以上のような言葉は驚くに値せず、むしろ当然すぎるほど当然なことだ。美術家でなくても芸術を解する人であれば、芸術作品というものが個人を超えたものであることは見ればわかる。自明だ。
しかし、一般には芸術作品を創造することは自己表現だと思われている節がある。NHKの日曜美術館が我慢ならないのは、芸術家個人と作品を過度に関連づけて芸術作品を「メロドラマ」に貶めているからだが、それが長年続いているのは世の中に受け入れられているということなのだろう。
絵画は自己表現ではない。
そして色彩や構図の効果だけで成り立つものでもない。絵画とはもっと不可解で不思議なものだ。

「絵画は奇跡を起こさなければならない。完成した瞬間に、創作物と創作者の間の親密な関係は終結する。作者は部外者となる。絵画は作者にとっても、後にそれを体験するひとのだれとも同じように、天啓でなければならない。」マーク・ロスコ

川村記念美術館で開催されているマーク・ロスコ展を見た。
ロンドンのテート・モダンでは32万人の観客を集めた展覧会だ。
目玉は散逸している「シーグラム壁画」15点を1室に集めた展示。すばらしいの一言。
圧巻である。

1995年に日本各地を巡回した日本初のロスコ展は作品を年代順に1点1点並べた展覧会で、それはそれでロスコという画家を理解するにはとても良い展覧会であったが、今回のはまったく別物。ロスコ芸術を体感する展覧会となっている。

「シーグラム壁画」というのは、ニューヨークのシーグラムビル(ミース・ファン・デル・ローエ設計)内にオープンするレストラン「フォー・シーズンズ」の壁面を飾るためにロスコが依頼された連作絵画で全30枚の現存が確認されている。かねてより自分の作品のみで一室を満たしたいと考えていたロスコはこの依頼に飛びつくが、完成したレストランの雰囲気が気に入らなかったロスコは自らこの依頼を断る。そして完成していた30枚の連作が行き場を失ってしまった。

「レストランの雰囲気が気に入らなかったから断った」と言われているが、実際はレストランを見る前から、自分の絵がレストランには合わないことは分かっていたはずだ。

ロスコはレストラン完成前にヨーロッパに向かう船旅の中で「フォー・シーズンズ」のことを「ニューヨークの金満家どもが食事にありつき、見栄を張るための場所」とこき下ろし、さらに「この仕事を、ただ悪意のみに突き動かされ、言いがかりをつけるつもりで引き受けた。あの部屋で食事をするろくでなしたちが、一人残らず食欲を失うような絵が描きたい」と言ったという。

確かにあの空間では食事どころじゃない。食事どころか会話も出来ないだろう。展示室に入った瞬間に胸がいっぱいになる。圧倒的な空間。

昔、友人が「ロスコの絵の前に立ったらぽろぽろと涙があふれ出てきて、自分でも驚いた」と言っていたのを思い出した。

「絵画」とはなんと不思議なものなのだろうと思う。
「奇跡」とはこういうもののことを言うのだ。
by katayama_t | 2009-05-05 19:59 | Art | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : https://kattak.exblog.jp/tb/9686470
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented at 2009-05-05 23:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2009-05-08 09:17
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
<< ブルックナー休止 コンクールなんてくそくらえである >>


記録すること。すべて過ぎ去ってしまう前に。
by katayama_t
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
カテゴリ
以前の記事
2018年 08月
2018年 07月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 08月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
Link
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


View my profile