Katayama Takatoshi Weblog
<   2015年 08月 ( 3 )   > この月の画像一覧
いやなことはやらない。
d0094333_154172.jpg
「アルバイトをするために面接があって、しかも落ちることもある」ということを最近、現役大学生から聞かされた。どんな特殊なアルバイトかと思って「モデルか何かのバイト?」と聞いたら、いたって普通の飲食店だと言う。そして、どんなバイトでも今はそれが普通らしい。

私が大学生の頃は、ちょうどバブル景気のまっただ中で、そんなことはあり得なかった。どこも人手不足。上野公園で1人ベンチに座っているだけで、知らないおじさんから「仕事あるよ」と声をかけられた。

あるとき、建築中のビル内装のバイトに申し込んで、現場のビルに行ったら、申し込んだ会社がどこで仕事をしているのか分からない。携帯電話など無い時代だから連絡のつけようが無い。しかたがないので入り口付近で仕事をしていたオニイサンに「○○という会社知りませんか? バイトを申し込んだんだけど、どこに行けばいいのか分からないんですよ」と声をかけると、「これだけたくさんの業者が入っているからねえ……。」「良かったらウチで働きなよ」という返事。続けて「一日いくらで申し込んだの? ウチならもっと出すよ」と言ってくる始末(笑)。「いやあ、働くと約束したんでもう少し探してみます」と言ってあちこち探して、ようやくたどり着いた現場は、やはり人手不足で、ほとんど素人のロクに溶接もできないおじさんが鉄の窓枠を溶接していた。

良い時代だったか、悪い時代だったかと問われれば、いろいろ批判はあるだろうが良い時代だったと言う他はない。毎日が実に愉快だった。もともと楽天的な性格ではあるが「人生なんとでもなる」という根拠の無い自信は、あの頃の経験が元で形成されたような気もする。「将来を悲観する」という心理状態が何のことなのか正直言ってよく分からない。だから大学を出たら当たり前に就職をすると思っている今の学生達の気持ちも、理解しようとはするけれど本当には分かっていないと思う。

最近そんな良い時代のことを、ありありと思い出させてくれる本に出会った。本のタイトルは「タワシ王子の人生ゲーム」。現在下高井戸でJAZZ KEIRINという変わった名前のうどん屋を経営している栂野さんの破天荒な自伝エッセイ。先日、出版関係の仕事をしていたマリオさんから送られてきた。どうやらマリオさんが企画を立ててこの本が作られたらしい。本には手紙が添えられており、そこには「今の若い人たちに読んで欲しい」という言葉がある。

表紙を開くとまず、目に飛び込んできたのは、

「いやなことはやらない。」
「迷ったら新しい方を選ぶ。」

という言葉。

「ああ……! これは何か自分にとても近いものがある」と思った。

著者の栂野さんは、私などとは比べようも無いほど自由に生きてこられた方で、似ているなどというのはおこがましいが、それでも、何かが似ている。それはやはり、若い頃にあの時代の空気を吸って生きてきた人が、ひょっとしたらどこかに共通して持っている鷹揚さのようなものなのかもしれない。

栂野さんは、大学を卒業後、英語もできないのに無謀にもいきなりニュージーランドでの日本語教師に応募する。所持金はたったの5万円で片道切符だったというからもうむちゃくちゃである。昨今のインターネットに多く巣くっている冷淡で野蛮な人たちから見ると人に迷惑をかけるただの身勝手なバカであり、冷笑されるのがオチだが、当時はそのくらいは笑って許容する余裕が社会にあったように思う。

今のような閉塞感が漂う社会の中で育った若い人たちが、こういう人や生き方をどう思うのか正直分からない。「今の若い人たちに読んで欲しい」というマリオさんの言葉を見たときに、この本を受け止められる人がどのくらいいるかな? と、ちょっと心配に思った。しかし、たとえ1人でも誰かの心を打つことができれば、それで良いような気もする。1人なら心当たりがある。偶然にも下高井戸に住んでいる無茶ぶりの若い女性だ。
近いうちにJAZZ KEIRINに彼女を誘って行ってみるかな。
そう思うとなんだか楽しくなってきた。



栂野のインタビュー記事
https://cakes.mu/posts/10488
by katayama_t | 2015-08-29 23:39 | Life | Trackback | Comments(3)
シンクロする人
d0094333_2151668.jpg
普段まったく交流が無いのに何かとシンクロしてしまう人というのはいる。
私の中でその筆頭がクラウドデザインの三浦さんだ。常に「お久しぶりです」と挨拶するほど疎遠だが、話をしだすと久しぶりに会ったとは思えないほど同じような視点で世の中を見ていることにいつも驚かされる。

先日個展会場で話をしていた時に、作品コンセプトの話になった。
私が「イメージを固定したくないので作品にタイトルはつけないけど、自分の中ではあるイメージを手がかりに作品を作っている」という話をして、それから恐る恐る相手が知っているかどうかを伺いながら「死の島という絵がありますよね?」と聞くと、三浦さんは「ええ!」と言いながら顔が明るく輝いた。明らかに何か思い当たっている顔だ。安心して話を続けた。「あの絵には糸杉の林が描かれていますね、それがこのイメージの元です。」と言って作品を指すと、三浦さんは言葉にならないといった風で大きくうなずいた。つづけて「島の人工物(建物)のイメージがこのあたりの作品で、棺を乗せた船が、地下の展示です。」と言うと、すべてが納得いったようで、そこから話ははずんだ。糸杉は墓場に植える木だし、地下の船は棺桶にも見える。焦点が合わず消え入りそうで不確かな蝋や糸などの素材。今回の展示はどこか死のイメージがある。

それから、ひとしきり死の島にまつわる話をした。当時ベルリンの家庭では一家に1枚あの複製画が飾られていたとか、ラファエル前派の絵画はどうも好きになれないとか、時代を超越したどこにも属さない絵の中に良いものがあるとか。他の人とはなかなかできない話ができてとても楽しい時間を過ごせた。

「死の島」の作者のベックリンは、同じ主題の絵を1880年から1886年の間に合計5枚描いており、ほぼ同じ構図だ。
実をいうと私の今回の作品も過去の作品に酷似しているので作るべきかどうか迷っていたが、調べてみるとベックリンは5枚の「死の島」を描いていたということを知って、ふっきれた部分がある。その時に作りたいのものを作れば良いのであって、それが過去の作品に似ているように見えようが、自分の中では常に新しいのだ。

それにしても、三浦さんはどうして、こんなに詳しく「死の島」を知っているのだろうと不思議に思って聞いてみると、実はほんの数日前にあるデザインの仕事で気になって調べたのだという。ほぼ同時期に、ほぼ誰も知らないような絵画に引き寄せられていたことになる。

作品を作っているとこういう奇跡がたまに起きる。
by katayama_t | 2015-08-07 21:53 | Art | Trackback | Comments(0)
巷房個展2015
8月8日(土)まで銀座巷房で作品展をやっています。
ぜひご来場下さい。
d0094333_17344320.jpg
d0094333_17345830.jpg
d0094333_17351165.jpg
d0094333_17352578.jpg

by katayama_t | 2015-08-03 17:35 | Art | Trackback | Comments(0)


記録すること。すべて過ぎ去ってしまう前に。
by katayama_t
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
カテゴリ
以前の記事
2018年 08月
2018年 07月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 08月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
Link
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


View my profile